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楽器修復のご説明​

楽器修復の経緯について、平岩剛様にスライドでまとめていただきました!


1 奥様よりのお便り①​​

1970年頃、範彦愛用と思われる(表面や指板のキズ、脂などから)楽器が珍しい壊れたケースに入って我が家に届きました。​1970年頃範彦から預かり、近年その方が実家をかたずけた折りにそのままの姿で出て来たという経緯です。


2 奥様よりのお便り②​

当時、範彦が足代につっかかり、ギターに当たり穴が空いてしまったとの事です。​河野さんに返せずに、友人にとりあえず預けたようです。​​モザイクは河野ギターと同じです。弦巻きの貝製?がその後のとは違って、フリル?花びら?がついております。​範彦が張った弦のままですが良く鳴ります!!​


3 田邊さんの返信メールから

2022年4月、奥様からのご依頼を受けて、​楽器の修理を、群馬県足利市に工房を構える田邊雅啓さんにお願いしました。​
すると、、、​

田邊さんの返信メールから(以下、説明部分は同じ)​

実はこの修理のギターの話はすでに小耳に挟んでいました。​群馬県太田市に懇意にしているギタリストがいますが、その方は渡辺さんのパリコン前からのお付き合いのあった弟子と言うよりご友人の方で、奥様ともご面識があり、たまたま別件で連絡を取り合っていた際に、ちょうどそのギターが以前のお弟子さんから送られてきたとかで、その話を数ヶ月前にそのギタリストから聞いたところでした。​時を同じくして、アウラに渡辺さんが録音に使ったものとされているギターがアウラに来たところから、その話になったのですけどね。​巡り巡って、平岩さんにそのギターの修理を託されて、私に話がくるという、ただならぬ縁すら感じます。​


4 さて楽器の状態は、、、​①

工房に持ち帰って確認したところ、表板下部陥没割れ、指板脇割れ、裏板下部剥がれ、力木3本剥がれ、裏板中心部割れ、がありました。​

問題の表面版の陥没場所は、写真にある通り、お湯を含ませながら、治具を作って、中からピンポイントで押したところ、大分目違いは戻りました。​

でも、やはり、金具が刺さった一部分は中から押してもお湯で少しふやかしても、全然戻りませんでした。全体的にはフラットに近くなったので、これで膠を入れて、平面に出来るだけ戻して接着出来れば、色は濃くなれど、陥没の印象からは大分離れて、大きいぶつけキズくらいになれば良いと思います。いずれにしても、大分跡は残ります。強度に関しては、わりとしっかり目の補強材を裏から貼れば大丈夫です。​


さて楽器の状態は、、、②​

河野ギター表板は、横方向にしっかりした力木があるので、くっついていれば、この陥没割れ自体はあまり音には影響ないように思います。​音への問題はむしろ裏板側です。裏板が剥がれてめくれ、力木全部外れてますので。​まともな音にするにはむしろ裏板側を直すのが、必要です。​


そして思わぬ発見が、、、①​

扇状力木の高音側一番外側の一本に、ローズウッドの、凹形状をした長めの棒材をかませてあるというか、はめ込んで乗せてあるというか、おんぶしている状態なのです。手書きメモをお送りします。凹形した重いローズウッドの角材を高音側端の力木に乗せることで、比重が軽いベイ杉材の特徴である、​立ち上がりが早く明るいキャラクターに、密度と粘りを音色に加味するべく、河野さんがイメージを持って試行したと思われます。​長年修理に携わり、1年に5台としても河野ギターも100台くらいは見ている気がしますが、こんな試みは後にも先にもこの1台です。恐らく渡辺さんに先入観を持たれたら困るので、ご本人には話さず、秘密裏に行われたと思われます。プロトタイプとして試行されながらも、その成果をよく確認しないまま時が過ぎて継続されないまま、(知る限り)特別なこの1台になったと想像します。​河野さんがもしこの楽器を見ることが出来たならなんと思うだろうか、同じ製作家と気になるところです。​​


そして思わぬ発見が、、、

憶測の域は出ませんが、その理由や効果については、おそらく、高音側の音の密度やサスティン、立ち上がりの抑制、鳴る面積を狭くすることによる、高い周波数、高次倍音を出やすくすることが考えられます。​

 

<音の密度やサスティン、立ち上がりの抑制について>​

表板はラミレス3世に発見されたとされるレッドセダーが使用されています。​この材の特徴は松に比べて比重が軽く鳴りやすく、軽く明るく鳴り、音のたち上がりが早いのが特徴です。​一方でその比重さの軽さゆえの特性から、音が重く粘りのある音が出にくくなるとも言えるはずです。​そのため外側の力木に重いローズウッドを乗せれば、杉の表板の比重にローズウッドの比重が足され、足された高音部分は重く密度が増えます。また重いため、杉の表板の反応は早いが、初動が遅れる傾向になると思います。​またその重さは一旦揺れてしまえば、サスティン、、長い振幅に変わります。​高音はメロディライン、サスティンは長い方が何かと演奏がし易くなりますから、、。。​

<鳴る面積を狭くすることによる、高い周波数、高次倍音を出やすくなるについて>​

表板に硬く重く長いものがあればその周辺全体は振動は鈍くなりますが、​そこが壁となって、その部分に跳ね返り、短くなる音の成分、倍音はありそうです。​表板の一部分に作られた壁によってその内側が鳴りやすくなるというか、​その壁を越えて鳴るゆったりとした長い振幅の成分は明らかに減りそうです。​またその壁になっている硬いもの自身も、何かに当てれば、コーンという硬い高い音が鳴りそうです。そういったあえて表板の振動面積を狭くすることは、​写真にあるラミレスを筆頭に60年代から盛んに行われて来ました。​筆頭というか、ギターブームやセゴヴィア使用で売れに売れた品質も素晴らしいラミレスを、みんなが真似したんですけどね。​そして河野さんもその一人で、ラミレスと世界の動向に影響されて杉材を使うようになり、杉材の短所の部分を補正すべく、やはり先人の工夫を真似ながら、独自に硬く重いものを力木に乗せてしまうという発想に行きついたのではないかと思います。​ただそれからずっと同じ試みをしているわけではないので、たまたま偶然が重なったか、このギターに仕込まれていたことは、唯一無二の試みと渡辺さんとで、たまたま偶然が重なった一つの奇跡のようなのかもしれません。​


8 最後に

*田邊さんのメールより(2023/2/8)​

 ご報告ありがとうございました。​渡辺さんの楽器がただ直してお蔵入りではもったいないと思っておりました。​弾かれてこその楽器なので、私としては本当に嬉しい企画ですし、渡辺さんも​お喜びのことでしょう。良かったです。​皆さまお忙しいでしょうが、小さくも継続する会になるとよいですね。​渡辺さんの偉業やその門下生の活動を含めて、さらに広まり、認知されること​祈っております。​

                               田邊雅啓​